このご時世、イベントでお会いすることもなかなか難しいと思います。本来なら皆様にブースで語りたかった貨車のあれこれをWebページでまとめました。どうぞ宜しくお願いします。
新専貨とは
昨今、日本における鉄道貨物輸送の主役はコンテナである。荷主はコンテナを用意し、荷物を詰め、最寄の営業所に持ち込むことで列車輸送される。コンテナのなかった時代、荷主は貨車自体を借り、最寄の駅に呼び寄せて荷物を詰め、発送した。これを車扱という。これには車扱用の貨車や、貨車を目的地に振り分けるジャンクションとして大掛かりな操車場が必要だった。また、車扱及び操車場を用いた輸送形態をヤード系輸送と呼ぶ。 1984年、貨物の輸送効率化を推し進めていた国鉄は、非効率的なヤード系輸送を廃止し、コンテナ専用列車及び末端のトラック輸送、あるいは単一品目の専用列車による荷主への直行輸送へと転換を図った。しかし化成品を筆頭に、安全上の問題からコンテナやトラック輸送への代替が進まない輸送品目も依然存在したため、一部の車扱は存続となった。しかし操車場は消滅したため、全国に存在する臨海鉄道のヤードも活用することで、従来のヤード系輸送を代替した。 新専貨は、車扱を維持するために生まれた列車である。全国の拠点を渡り歩き、車扱用の貨車を増解結しながら全国の工場を結んだ。編成は化成品タンク車を始めとして、冷延コイルや鉄板、重油、石炭、セメントなど多岐に渡る専用貨車が連なった。その姿はヤード系輸送の全盛期を髣髴とさせる”デコボコ”な編成であり、ノスタルジックであると共にコンテナ専用列車とは一線を画す存在であった。 新専貨の時代も長くは続かなかった。車扱用の貨車は雑多であり、メンテナンスにコストがかかる上に更新も殆どされず、車齢も高くなりつつあった。21世紀に入ると、需要変動に弱く、速度が遅く、速達性もないなどネガティブな面が目立つようになり、JR貨物は遂に新専貨の廃止を決断した。車扱は数々の障壁を乗り越え、段階的にコンテナ化が進められた。その結果、2008年3月のダイヤ改正をもって新専貨は消滅した。 新専貨は潰えたが、化成品タンク車輸送は大牟田発のみ存続した。新専貨の面影を残す運用として人気を博したが、これも2009年12月をもってタンクコンテナへと転換され、日本における化学薬品タンク車輸送の歴史は幕を閉じた。最後の運用は大牟田-南延岡、タキ5450による液化塩素輸送であった。
編成例
3560/3561ㇾ 新潟タ-笠寺
新潟タ-米原間
日本海縦貫線を征く運用です。新潟ター米原の区間では富山のEF81が担当し、富山や新潟を始めとする日本海側ユーザーからの化学薬品輸送が主でした。
3560/3561ㇾ 新潟タ-笠寺
米原-笠寺間
米原ー笠寺の区間では、2000年度の時点で岡山のEF65が担当となっていたようです。また、年度によっては新鶴見のEF65や吹田のEF66なども記録されています。チキ4750による厚鋼板輸送やトキ21500による冷延コイル鋼板輸送がみられるのも本列車の特徴でした。
3880/3881ㇾ 酒田-川崎貨物
川崎貨物-高崎操車場間
首都圏と日本海側を結ぶ運用で、区間によって編成と牽引機が大きく変化するのも本列車の特徴です。また、川崎貨物ー高崎操の区間は年度によって牽引機が異なり、新鶴見、高崎のEF65、高崎のEF64が記録されています。
3880/3881ㇾ 酒田-川崎貨物
高崎操車場-南長岡間
高崎操ー南長岡では上越国境超えの区間となり、高崎のEF64-1000が重連で担当しました。渋川や熊谷タ止まりの列車は解結されていますが、安中からの硫酸が加わります。
3880/3881ㇾ 酒田-川崎貨物
南長岡-酒田間
南長岡-酒田の区間では長岡のEF81が担当します。中条へ向かう硫酸、メタノールやアンモニアが増結される一方で二本木、新井向けなどは解結されるため、編成の顔ぶれは一変します。
4380/4381ㇾ 黒井-二本木
3880/3881ㇾ及び、3560/3561ㇾから継走される、新井及び二本木向けの短距離輸送です。
貨車シリーズ(フルキット)
気合い入れて作った3Dプリント貨車シリーズです。DMM.Make様の3Dプリントサービスを活用しながらオンデマンドでキット販売しております。メインである化成品タンク車は、化学薬品の輸送効率と安全性を両立させるため、長い歴史を経て設計・運用上の様々な試行錯誤がありました。その内容が車両の形態差に表れ、目的な同じながらに達成への様々なアプローチが存在したことを感じさせてくれます。
硝酸車
主に速星駅を拠点として活躍していた、日産化学工業の車が多いです。同社の硝酸車は非常に歴史が長く、古くはタム100、最晩年には日本の化成品タンク車として最後期(富士重製としては最後)のタキ10700,タキ29100最終ロットまで、貨車輸送へ非常に力を入れていたユーザといえます。タキ7450,10950,12050のような1形式1両の珍車、タキ7500,10453へのキャノピー追加改造車など個性豊かな顔ぶれも楽しいポイントです。
硫酸車
全国的にみられた硫酸輸送用タンク車です。非常に古典的なタキ300から、化成品タンク車として最後の新製形式であるタキ29300までバラエティは多岐に渡るほか、他形式からの改造転入車も多く含まれます。中でも、タキ1700からの改造転入車であったタキ4581は新専貨輸送末期まで運用に入り、タンク車による硫酸輸送の最期を見届けました。また、タキ29300の最終ロットは2004年製であり、新専貨終焉まで僅か3年程度しか活躍の場が与えられなかったため悲運の形式として知られています。
タキ300 4485 タキ300 4581 タキ4000 24038 タキ4000 34042 タキ5750 KIタイプ1 タキ5750 KIタイプ2 タキ5750 タイプ1 タキ5750 ITタイプ タキ6250 Nタイプ タキ29300 Kタイプ タキ29300 タキ46000 タキ5750 MBタイプ タキ5750 KIタイプ3
苛性ソーダ車
硫酸車ほどドラスティックな構造変更は見られませんが、側ブレーキから手ブレーキへの変化、ドームレスへの移行、タンク体留め金の変化、キセ接合部の処理方法など化成品タンク車としての構造変化を定点的にみられるジャンルではないかと個人的には思います。模型でお馴染のタキ7750に加え、新専貨としてはタキ2600,4200もまたメジャーな形式ですが、Nとしては未だタキ7750しか製品化されていないのは何故でしょうね…。
タキ2600 タイプ1 タキ2600 タイプ2 タキ2600 タイプ3
セメント車
各社競作のなかで様々な形態が生まれ、セメント列車という単一品目の編成でありながらもバラエティに富んだ、良い意味で不揃いの編成が目を楽しませます。特にタキ1900は40t積セメント車としての多数派で、基本設計は同じながらメーカーによって多くの構造的な差異が生まれた形式です。所有者によって荷役設備が異なるため、荷卸部やハッチに形式横断で特徴が現れます。電気化学工業の車は日立製であり、外側リブ補強タンク体が特徴的です。また所有者特有の構造としては歩み板が山なりな点、ハッチが4個となっている点があります。
タキ1900 DKタイプ1A タキ1900 DKタイプ1B タキ1900 DKタイプ2A タキ1900 DKタイプ2B タキ19000 DKタイプ
その他化成品タンク車
タキ17900:新興発塩尻行のアルミナ輸送向けタンク車です。日立製と日車製があり、それぞれメーカーごとの構造的差異が現れているほか、何故か歩み板の手摺が全く異なる点も興味深いところです。
タキ5900:日産化学工業の所有していたクロルスルホン酸専用車です。マイナーですが硝酸車より一回り小さく、液出管も無いところが特徴的です。
タキ26000:青化ソーダ液輸送専用車です。落成時は亜硫酸ソーダ液車として活躍していましたが、ニトロベンゼン、青化ソーダ液と転職を繰り返し、晩年はタキ22900共々上越国境を超えていました。青化ソーダ液用にバルブ周りへ鍵箱をつけられたり色々改造されていましたが、亜硫酸ソーダ液車としての特徴だったV字のタンク体が名残として残っています。
タキ22900:従来、青化ソーダ液は苛性ソーダ車の臨時専用種別変更で輸送されていました。しかし昭和46年に毒物及び劇物取締法が改正されたため、本形式はこれに準拠した保安対策を実施した専用車として誕生しました。青化ソーダ液車としては唯一の専用形式で、平成になってからも増備されました。タキ26000や11800では荷役管のバルブ周りに後付けの鍵箱が設置されていますが、本形式では予め独立した3個のドームが設けられ、各々に鍵がつけられるようになっています。
タキ17900 Nタイプ タキ17900 Hタイプ タキ5900 タキ26000 タキ22900
貨車シリーズ(改造キット)
市販貨車の惜しいところを矯正する部品です。フルキットより手軽に作れて、かつ効果的なものを目指しています。
タキ35000台枠キット
河合商会やマイクロエースのタキ35系貨車は台枠が広いので、これを矯正するために色々作りました。台枠と台車のセットで、KATOのタキ35000に近いプロポーションを実現しました。
Tカプラー
「連結できるダミーカプラー」をコンセプトに、実車と同じ寸法のナックル、同じレベルの連結面間隔を実現すべく製作しました。強度的にはレンタルレイアウトでの長編成運転に耐えられるレベルで設計しています。市販カプラーより小さいため互換性がなく、調整も少し大変ですが、カプラー周りの印象は一般的なNゲージのそれからかなり改善しています。
T-Truck(Tango)
河合商会の貨車は車高がちょっと…という方に向けて、交換するだけで車高の下がる台車を製作しました。車高は勿論のこと、台車自体の幅も狭くすることで見栄えが実車に近づきます。現在はTR41C,41D,213C,225,211,216Bをリリースしていますが、トキ25000やタキ1900、各転用車などのためにTR209も作りたいなと考えています。
従来はT-Truckという名前で販売しておりましたが、強度面での見直しと市販カプラーへの対応を目的に「Tango」と名前を変え、一部の製品から適用を開始しています。
機関車シリーズ
貨車にはスイッチャーが必要ということで、少しづつ作り揃えています。
DL17 有田川公園仕様
JNMA 初公開!有田川鉄道公園にて動態保存されているDL17号の3Dプリントキットです。ダミーの足回りが付属していますが、動力化の際はアルパワーN16S(2軸)をお使いいただけます。売り上げのうち、経費分を除いた金額については実車の維持整備費用として寄付されます。※本製品は工作経験者向けです。
こちらのBOOTHアイコンからお買い求めいただけます。
https://t356x.booth.pm/items/3015805
25tスイッチャー
専用線でかつてはよく見かけた、Hタイプのスイッチャーです。前期の丸屋根と後期の角屋根を作りました。速星タイプのグリル付きもあります。動力はアルパワーN14Sを入れられますが、動力を入れない場合でも車輪(KATOの11-606)が入ります。足回りを削ればロッドタイプの動力も入れられます。
ギャラリー
おわりに
ここまでご覧くださって、ありがとうございました。貨車模型の楽しさが少しでも伝わったならば嬉しく思います。
頒布物は以下で販売しております。
またタキ17900につきましては、甲府モデル様から発売させていただいております。
実車写真協力:UNLSGTS